7:台風19号のあとで

 

台風19号の被害は想像以上だった。

15号の被害状況や千葉県の対応が注目を浴びる中での19号の接近で、マスコミでも、今までにない規模の台風が首都圏を直撃すると連日報道していた。「さすがに今回はヤバそう」と僕は思った。だから台風が接近する2日前に近所のスーパーやディスカントショップに行って、食料や水を買おうと思ったけれど、考えることはみんな同じで、水はほとんど品切れ状態で、まるで3.11直後の光景を思わせた。僕の奥さんもスマホで防災対策を調べて、養生テープを買いに行こうとしたら、どこも売り切れで置いてなかったと言っていた。代わりに段ボールをもってきて一緒に窓ガラスに貼り付けた。

 僕の住んでいる埼玉県春日部市は、知っている限りでは大きな被害はなかったようだが、近くの公民館には130人、小学校には100人も避難してきたという。13日の深夜には、僕の働く福祉施設にも、市から連絡があったようで、市の職員が駆け付け避難所として開放することになり3人ほど避難してきた。施設長によればこの40数年間で初めてのことだったようだ。

 

 

 日に日に被害状況や課題が浮き上がってきて、本日付の埼玉新聞1面にも、堤防が決壊した64の河川のうち、埼玉や福島、宮城といった県が管理する河川のうち13カ所で水位計が設置されていなかったことが明らかになった。水位計は現状把握や、流域の水位予測に役立ち、人が住んでいる地域の比較的小さな河川でも設置した方がよいと専門家の意見が合わせて掲載されていた。

 

 2面の「フォーカス」(話題のニュースを深堀する記事。僕もよくチェックしている)には、台風から高齢者の命をどう守るかというテーマの記事が載っていた。

 福島県いわき市の老夫婦は、自宅1階で一緒に寝ていたが、氾濫した川の水が部屋に入ってきて、普段使わないベッドに避難した妻は助かったものの、足腰が不自由な夫・関根治さん(86歳)を引き上げることができなかった。治さんは「世話になった」と言い残しながら背丈の高さまで迫った水に沈んでいった――。

 今回の台風で亡くなった人の7割は高齢者。自治体による避難呼びかけの遅れや夜の避難で被害が拡大した例は後を絶たず、それを教訓に明るいうちに避難所を開設し自主避難を促す動きがあるようだ。春日部市も早いうち(12日、朝)から3カ所ほど避難所を設け周知していた。政府でも、避難勧告の1段階前に当たる発令を「避難準備・高齢者等避難開始」に変え高齢者避難を促している。一方で、いくら防災情報を流しても、住み慣れた家以外での生活を不安視してテレビ等の呼びかけに消極的な反応を示したり、避難を呼びかけられても「2階に上がれば大丈夫」などと行動に移さない傾向もあるようだ。しかしハンデがある人が、水が迫った時に、いざという時の、命を守るための素早い行動がとれない。

 専門家は、行政がバスで街を回って半ば強制的に避難させるか、近所同士で1カ所に集まってもらい一緒に移動するような対策が必要だと提案していたが、実現はなかなか難しいだろう。

 

 

 浸水等によって、避難所生活を余儀なくされている方がいる違いない。

9月上旬、児童福祉関係の研修で、4日間、東京・代々木に通っていて、その最終日に、僕は新宿コズミックセンターに立ち寄り、“避難所生まれのアーティスト”と呼ばれる遠藤昭三さんのダンボールアートを観に行ったことを思い出した。

 3.11の原発事故で遠藤さんは福島県郡山市の避難所に避難した。避難所は2500人の人たちでごった返し、個人の居場所を確保する仕切りや床敷きは、段ボールが使われていた。

 その中で遠藤さんは“辛い避難生活の象徴のような段ボールを「希望」に変えられないか”と考え、段ボールを使い見よう見まねで立体的な貼り絵を作り始めた。桜の花々や金魚と明るい色を基調とした段ボールアートは避難していた人々の心を和らげ、大好評だったという。僕自身、現物をみて丁寧な色使いで段ボールがここまで魅せられるものかとびっくりした。その評判は全国規模で広がり、東京や大阪、広島などで展示されるようになった。

 今回の台風で、僕はたまたま何事もなかったけれども、遠藤さんの物事の向き合い方はとても参考になる。