4:ツイッターと群像/住んでてよかった埼玉ものがたり

 1.ツイッターと群像

 

――同じような思考回路の集まり。

 

 ここ最近は、本もまともに読める時間が取れなくて、ちょっとした隙間時間にツイッターを眺めていることが増えた。僕はほとんどツイートすることはない。自治体や有名人の公式アカウントを中心にフォローし、ときおり気になるユーザー(まったく面識のない人間)をフォローし、“彼ら”の言動をマークしている。

 結局のところ、“彼ら”の発言をみることによって、僕の考えやアイデンティティといった深層心理的な部分の支持や肯定を求めているのかも知れない。インターネットは便利だけれど、自身の都合のいい断片的な情報しか入らなくなるとよく言われる。まさにそれをツイッターの眺める時間が増えたことによって、ひしひしと感じている今日この頃。

 

 昨日、そんな“彼ら”のリツイートや「いいね」が、上野千鶴子さんの東大入学式の祝辞内容について集中していた。“彼ら”は、(おそらく)互いに面識のないのだけれども、同じ共感ポイントを持ちあわせていることを改めて感じずにはいられなかった。もちろん個々に感じたことは違っただろうけれども。

 

 今朝の埼玉新聞にも上野さんの祝辞についてのニュースは掲載されていた。「努力だけではどうにもならないことがある」といった主旨の話は、知的な刺激に満ちたものだったし、主体的な行動を促せるものだった。ある広報担当のビジネスマンが、いま求められるリーダーシップは、人を引っ張っていく力ではなく、部下たちをワクワクさせられるか否かがポイントであると言っていたが、上野さんの祝辞は僕にそのビジネスマンの言葉を思い起こさせた。ぜひ全文読んでみてください。

 

2.住んでてよかった埼玉県ものがたり

 

 去年あたりから、埼玉は翔んでる。“ぶっ”が頭に付くくらい。

 

 住みたい街ランキングで、大宮、浦和が上位を押さえたり、『翔んで埼玉』も完成度が高い映画だったし、テレビの特集でも埼玉県のことがたびたび取り上げられるようになった。ここ最近マジ埼玉異常気象並。……そんな埼玉の飛躍(?)を、(たぶん)多くの埼玉県人たちが、違和感とともに、ちょっぴり「住んでてよかった埼玉」と、感謝の念が湧いたに違いない。

 

 昨日から妻が寝込んでいる。食事はほとんど食べられないし、頭痛とめまいが続いている。一昨日、クリニックから渡された内服薬の副作用が原因なのは明らかだった。

 2日目の今日も、少し回復したとは言え、ほとんど起きられないし、頭痛とめまいがしている。内服は中止して、処方された薬を調べてみると、重大副作用に血栓症と書いてある。休日だからカルテのあるクリニックに連絡しようがない。「ごめんね」と極端に弱々しくなっている妻を見て、心筋梗塞脳梗塞の心配が僕の頭を過ぎる。最悪な事態を考えたとたん、僕の身体から血の気が引き、一瞬、めまいのようなものまでした。初期対応を誤れば、取り返しのつかない事になるかもしれない。

 だからといって動きようがない。不安ばかりが募る。窓の外には薄い灰色の雲が広がっている。それはまるで今の僕の気持ちを表しているような気がした。

村上春樹の小説で「生と死は対極にあるものではなく自身の内側に存在するのだ」(『ノルウェイの森』)と言った。仏教開祖である釈尊四門出遊の話だって、死は身近に、自身にも存在しているという現実を知らせる話だった。

 死は我々の身近に存在する…。そんなことを考えながら、インターネットで薬の副作用について調べていると、ふと「♯7000」のことを思い出した。

「♯7000」とは、救急車を呼ぶほどではないけれども、どうしたらいいのかわからない時にかける救急電話相談のことである。僕がそれを思い出したのは、川口市に住んでいたときだった。川口市選出のある県議会議員(先週の県議会選挙でまた当選を勝ち取ったようです)が、自身が推進・拡充した政策実績として語っていたことを僕は覚えていたのだ。

 現在、その「♯7000」は、「♯7119」に変わり、それぞれ別々だった子どもの救急電話相談、大人の救急電話相談、医療機関案内の窓口が一本化されている。

 さっそく僕は「♯7119」に電話を掛ける。相談員である看護師が電話に出る。

 「もしもしー」

 「どこにお住まいですか?」と中年女性の声がした。

 「春日部です」

 「どうされましたか?」

 僕は妻のこれまでの経緯と容態、服用した薬を伝えると、「明日、カルテのあるクリニックに電話してください。食べ物は無理に食べさせなくていいです」といった返答が返ってくる。あまりにも即答で簡潔だったので拍子抜けした僕はさらに妻の容態の話を付け足すが、中年女性はまた同様の言葉を僕に投げかけた。

 しかし看護師の回答を聞いているうちに、僕の中にあった漠然とした不安は少し和らいでいった。

 「お大事になさってください」と言われて電話を切った。

 ちなみに、この電話窓口は他県でも実施されているが、夜間のみだったりと時間制約がある。365日24時間相談対応ができるのは埼玉県だけであるようだ。国政はニュースで注目され、市政は身近であるが、その間である県政というのはなかなか人の目には見えにくいし、身近に感じにくい。ついこの間の県議選の投票率は過去最低だったという。

 病気や副作用による体調不良には休日も夜間休みも存在しない。そんなニーズつかみ政策へと繋げたあの県議の慧眼には感心しつつ、県の制度として作りあげ、運用している埼玉県に「住んでててよかった埼玉県」と感謝の念を抱かずにはいられない。